渇望の鬼、欺く狐
 ぽんぽんと背中を叩いてやっても、泣き止む事すらしない。

 抱いた所為で、先程よりも泣き声が近くなって耳も痛い。

 ふいに目に映った、お包みの端。

 そこには【与太郎 二月七日】と刺繍されていた。

 今が十月の終わりである事を考えれば、赤子はどう見ても小さい。

 やはり親は生活に困窮していたのだろう。

 もう何度目かもわからない溜息。

 それと共に、その名を口にした。



「――雪(ユキ)。居るかい?」



 数秒遅れて、その気配は私へと届く。

 森林の隙間から姿を現し、私の前へと降り立った者。



「勿論居るよー。何、面白いの持ってんね」



 薄茶色の髪と、ニヤニヤと笑う口元。

 その頭には本来の姿である狐の耳が備わっていて、背中の向こうには四本の尻尾が揺らいでいた。



「お前に頼みがあるんだ」


「え、藍(アイ)が俺に頼み? うわ、何々ー? 俺、藍の為なら何でもやるよー。それ、どうすればいいの? 煮る? 焼く?」



 正直なところ、こいつとの会話はあまり気が進まない。

 だけど、こればかりは仕方無いと、自分に言い聞かせて口を開いた。
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