渇望の鬼、欺く狐
 幼い頃から、変わる事のなかった純粋さ。

 その純粋さは、いつか自分の捨てきれない願望を叶えてくれるかもしれない。

 だからこそ狐は。



『お前が遠くに出かけて、何かあったら大変だろ? だから藍は、きっとお前を――』



 あの日、少年に結界の事を黙っておいたのだ。

 少年が何も知らないまま、大きくなれるように。

 何も知らなければ、何かを疑う事もない。

 知識に伴う疑念など必要ない。

 知識を持ってしまえば、それは純粋さを欠きながら、相手の行動の裏を読む事に繋がってしまう。

 それこそ。

 張り巡らされた結界の意味を考えようとしている、自分のように。

 もっとも少年の素直さは、時に純粋故の鋭さを発揮して。

 その鋭さは、すでに純粋さを失ったと自覚する狐に、自身への嘲笑をもたらす物でもあったけれど。



「ねぇ、藍。どうして藍は、旭を結界の中から出す事を、あんなに嫌がってたの?」



 狐にとって、その質問の答えは。



「藍は何に怯えてたの?」



 きっとすでに、心の中で予想を立てていたように思う。



「動物も人間も、鬼の藍が気にする程の存在じゃないよね? 藍の妖力があれば、絶滅させる事だって出来る。だったらどうして結界を張るのか」



 それは、狐の躊躇いのない口調や、すでに落ち着きを取り戻した表情からも、簡単に汲み取れた。



「怖いからって理由が、一番しっくりくる気がしたんだ」
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