渇望の鬼、欺く狐
「……い、…………い」



 意識の向こうの方。

 自分を呼ぶ声がする。

 聞きたい、と。

 願い続けていた声は、この声だっただろうか。

 何度も何度も望んだ。

 未だその望みが叶った事は、あれから一度もない。

 きっと、これから先も。

 自分でも理解しているのに。

 なのに。

 どうして私は。



「……い、藍ってばー」



 体を揺さぶる震動に、今度こそ意識は覚醒する事となった。

 上から自分を覗き込む雪が目に映り、ゆっくりと起きたての重たい体を起こす。

 それと同時に、雪は飛び付くようにして私へと抱き着いてきた。



「どうした?」


「……どうしたじゃないよー」



 間延びした口調。

 見上げる視線。

 体を抱きしめる強い力。

 どうしてだか、普段よりも雪が私に媚びようとしている事がわかり、ぽんぽんと薄茶色の髪を撫でてやった。

 
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