渇望の鬼、欺く狐
「……嘘吐き」



 小さく耳に届いた声。

 視線を向ける事で先を促せば、雪はまた小さな声で紡ぐ。



「俺の事だって構ってくれるって、約束したクセに……」


「お前がここに来た時には構ってるだろう?」


「構ってないよ! 買出しばっか行かされて、藍は全然俺の事構ってくれてない!」



 ふいに大きくなった雪の声に、咄嗟に自分の口元に人差し指を当てて合図した。



「あまり大きな声を出すんじゃないよ。旭が起きてしまうだろう?」


「……っ、そういうのが……」


「旭が起きると、お前の話をじっくり聞いてやれないけど。構わないのかい?」



 悔しそうにその顔を歪ませて。

 だけど雪はギュっと、その口を噤んだ。

 暫しの沈黙の後、雪は再度小さな声を漏らす。



「……んで? ……何でそいつとは一緒に寝るの? もう抱いてなくても一人で勝手に寝るんでしょ……?」


「最近は涼しくなってきたからね。たまに肌寒いと、寝ながらぐずるんだ」



 ぐずって放っておけば、そのまま大きな声で泣き出すから。

 だからぐずった時には、抱きしめて体を温めてやる必要があった。
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