渇望の鬼、欺く狐
「何だよ、毛が気に入ってたのか?」



 尻尾を赤子の前に揺らしてやれば、その目は尻尾を追いかける。

 四本の尻尾で顔を撫でてやれば、赤子はたった今まで泣いていた事が嘘のようにきゃっきゃと声を上げて笑い出した。

 小さな手で尻尾を掴んで、自分から顔を押し付けて。

 その様子を、狐は呆れたように眺めていた。

 ふいに腰を上げた赤子は、狐との距離を詰めた。

 胡坐をかいた狐の膝の上に立った赤子は、今度は狐の耳へと触れる。



「耳は止めろよ、くすぐったい」



 尻尾をまた赤子の顔の前へと持っていけば、急に視界が変わった事に驚いたのか、赤子は体勢を崩してしまった。

 狐が咄嗟に手を伸ばして赤子の背中を支えれば、赤子はそのまま狐の膝の上に座り込んで。

 狐は「また泣いてしまうかもしれない」と、不安をよぎらせるけれど。

 それとは裏腹に、赤子は未だ機嫌良く笑っていた。

 ぽんぽんと狐の胸元を赤子が叩く。

 そんな赤子に、また溜息を漏らしながらに口を開いた狐。



「……次は何だよ」


「ゆーゆ」



 狐の耳に届く言葉は、これまでとは違った種類の言葉。

「え」と狐が漏らす前に。

 赤子は、また狐の胸元をぽんぽんと叩きながら。

 にこにこと笑顔を浮かばせ、口にしていた。



「ゆーゆ、ゆーゆ」
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