渇望の鬼、欺く狐
 今更だ、と狐は思う。

 自分が赤子に対して抱いていた対抗心は、自然と赤子を拒絶する心を成り立たせていた。

 鬼とて、それに気付いていたハズだ。

 赤子がここに来て以来、ずっとその感情を抱いてきたのだから。

 今更、その感情を謝る必要性などきっとない。

 そう思いながらも。



『ゆーゆ』



 手に残る感触と、温もりが。

 自分を指す言葉と無邪気な表情が。

 狐の心情を乱していた。



「雪」



 その声が、普段よりも優しく耳に届いたように思えた事は、狐の気の所為だったのかもしれないけれど。

 自分を受け入れてくれると理解出来る、その声と視線に。



「旭に飯をやらないといけないから。後ろからなら抱き着いても構わないよ」



 狐はどうしても縋り付きたくて。



「……藍、好きだよ。……大好きー」



 確立された感情を口に出す事で、乱れた心情が僅かにだけ誤魔化せるような気がした。
 
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