渇望の鬼、欺く狐
 立ち上がり足を進めだした狐は、すでに野うさぎを目には映さない。

 だけど野うさぎの方は、狐に縋り付くように後ろを追いかけた。

 それに気付き立ち止まった狐。

 こちらを見上げる双眸は、確かにたった今自分から手を差し伸べた存在だった。

 にも関らず。



「付いてくんな」



 もう狐の心に野うさぎが入る余地など、ありはしないのだ。

 狐が告げて歩き出しても、野うさぎはやはり追いかける。

 その光景は、いつか狐が鬼に対して取った行動と良く似ているのに。



「キィ……!」


「いらないんだよ」



 あの時の鬼とは違い。



「キ……! ギ……!」



 狐はあまりにも冷淡でいて。



「お前なんかいらない」



 あまりにも冷酷だった。




 
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