渇望の鬼、欺く狐
 その目に温度は存在しない。

 同様に。

 その手には、躊躇など存在してはいなかった。

 ドサリ、と音を立てて地面に落ちた野うさぎ。

 すでに息をしない野うさぎを見ても。

 やはり狐の心は何も感じない。

 それどころか。



 早く帰ろう。

 藍と旭のところに。



 込み上げていた感情をまた湧き立たせて。

 鬼に選んだかんざしを早く挿してやりたい、と。

 そんな事すら、その思考によぎらせていた。

 足場の悪い森林。

 その手で消した命に、罪悪感を感じる事もなく。

 狐の足取りは軽く動き続けていく。


 狂おしい程に愛おしい存在たちの元へと向かいながら。






 

 
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