渇望の鬼、欺く狐
 雪は私の隣に腰掛けて、しっかりとその体を私へと預けている。

 体が重たく感じた理由は、その所為でもあったのかと知り、ほんの少し雪の体を向こうに押した。



「ん……、藍、起きたー?」


「起きたよ。重たいから、離れてもらいたいんだけどね」



 口にした言葉に反発するように、雪は目を擦りながらも、更にこちらへと体を預けてきた。



「そんな冷たくしないでよー。俺、藍のお願いちゃんと聞いてあげたでしょ? 一人で持って帰ってくるの大変だったんだよ?」



 室内の隅に置かれた荷物の数々。

 それを指差しながら誇らしげに笑った雪へ、一つ吐いた息。



「それは助かるけど。お陰で体が重たくて敵わないんだ」


「それは俺だけの所為じゃないでしょー」


「こっちは下に置くとぐずるから仕方無いよ」



 言いながら旭の頭を撫でる。

 安穏に包まれた寝顔は無邪気そのもので。

 自分の中には、その表情から視線を逸らしてしまいたいと、その思考すらもあるのに。

 なのに目が離せない理由は、一体何だと言うのだろう。



「……ね、藍」



 小さく耳を掠めた声。

 視線を向ければ、雪は普段のようにニヤニヤと笑う表情を浮かべてはいなかった。

 真っ直ぐにこちらへと寄せられる視線から、雪の真剣さが伝えられる。

 視線で先を促せば、雪はその口を開いて見せた。
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