月夜の翡翠と貴方
「………あっそ」
深緑の瞳を暗くし、まつげを伏せたルトは、私から目を逸らした。
…怒らせた、だろうか。
前を向くルトは、何故だか少しだけ悲しそうだった。
*
「ここ」
スジュナが指をさしたその目的地は、演劇の劇場だった。
小さく、古びた劇場。
しかし決して人の気配がない訳ではなく、きっと開演すれば誰か来るのだろうという明るさは感じられた。
「え………ここって…」
ルトが建物を見上げ、眉をひそめる。
…こんなところに、家?
いや、ここに家、なのか。
「ここ、お家だよ」
スジュナの目は、ふざけた冗談などではなかった。
当たり前のように、劇場を指差している。