月夜の翡翠と貴方


そしてスジュナの言う『玄関』らしい、劇場の裏口へ近づくと、バタバタと中から騒がしい物音が聞こえた。

何故か、叫び声まで聞こえてくる。

「ここに置いてた衣装、どこにいったのーっ!?」

「団長!第三場面のあのシーンの最終確認っ……きゃあ!」

ガラガラガラ……

思わず大丈夫ですか、と声をかけたくなるほど派手な音がした。


「…もしかして、開演直前なんじゃねえの?」

苦笑いしたルトがそう言うと、スジュナは不思議そうに目を開いて、裏口の扉を見つめた。


「………しらない人の声……」

「はっ!?」


知らない人?

この子は、劇団の子供じゃないのか?

それとも、今日は別の劇団の演劇なのか。

スジュナは少し迷った後、コンコン、とドアノブをノックした。

しかし気づかないのか、反応はない。

もう一度強くゴンゴン、とノックすると、声が聞こえた。

「すいませーん!しばらくお待ちくださーい!」

仕方ないだろう。

忙しそうである。



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