月夜の翡翠と貴方
お互いが無意識に作っている壁にお互いが気づき、それ以上踏み込めない。
…そんな、関係。
けれどなにも言わないルトに、私は少しだけ安心していた。
何故かなんて、私がいちばんよく知っているけれど。
*
「もう夕方かー、早いなー」
隣を歩くことに慣れてきた私は、伸びをするルトを見上げた。
もう、辺りは暗い。
建物の窓から漏れる明かりが、小さな村に光を灯す。
「ファナ、腹減らねぇの?」
そう訊かれて、ようやく自分がエルガの店をでてから、何も食べていなかったことに気づいた。
少しの間考えて、ぽつりと言葉を呟く。
「………お腹、すいた」
多分。
この変なぽっかり感は、恐らく空腹感というやつだろう。