月夜の翡翠と貴方


お互いが無意識に作っている壁にお互いが気づき、それ以上踏み込めない。

…そんな、関係。


けれどなにも言わないルトに、私は少しだけ安心していた。

何故かなんて、私がいちばんよく知っているけれど。





「もう夕方かー、早いなー」


隣を歩くことに慣れてきた私は、伸びをするルトを見上げた。

もう、辺りは暗い。

建物の窓から漏れる明かりが、小さな村に光を灯す。


「ファナ、腹減らねぇの?」


そう訊かれて、ようやく自分がエルガの店をでてから、何も食べていなかったことに気づいた。

少しの間考えて、ぽつりと言葉を呟く。


「………お腹、すいた」


多分。

この変なぽっかり感は、恐らく空腹感というやつだろう。



< 56 / 710 >

この作品をシェア

pagetop