月夜の翡翠と貴方



とある酒場の、一角。


そこで私とルトは、食事をとっていた。


「…どした?食わねぇの?」


向かいの席に座るルトが、フォークを片手にこちらを見てくる。

私は、周りに向けていた視線をぱっと目の前の皿へ向けた。


「……なんでも、ない。食べる」


急いで、チーズに絡まるステーキを頬張る。

「…別に、食いたくないならいいけど」

ルトが、むっとしたように眉を寄せた。

慌てて首を横に振る。


「違うの。私、こういうとこ来るの初めてだから、変な気分なだけ」


フォークを置き、眼前に広がる豪華な食事を眺めた。

周りの騒がしさに、耳を傾ける。


「………いろいろ、久しぶりだから」

呟いた小さな声に、ルトはこちらを見つめ、静かに微笑んだ。


「…………そっか」



< 58 / 710 >

この作品をシェア

pagetop