月夜の翡翠と貴方
とある酒場の、一角。
そこで私とルトは、食事をとっていた。
「…どした?食わねぇの?」
向かいの席に座るルトが、フォークを片手にこちらを見てくる。
私は、周りに向けていた視線をぱっと目の前の皿へ向けた。
「……なんでも、ない。食べる」
急いで、チーズに絡まるステーキを頬張る。
「…別に、食いたくないならいいけど」
ルトが、むっとしたように眉を寄せた。
慌てて首を横に振る。
「違うの。私、こういうとこ来るの初めてだから、変な気分なだけ」
フォークを置き、眼前に広がる豪華な食事を眺めた。
周りの騒がしさに、耳を傾ける。
「………いろいろ、久しぶりだから」
呟いた小さな声に、ルトはこちらを見つめ、静かに微笑んだ。
「…………そっか」