淫靡な蒼い月
キス
「キスしよう」
いきなりそう言われ、ときめいた。
戸惑った。
放課後の部室。
誰もいないと思って安心して足を踏み入れたそこに、彼がいた。
「キスしよう」
薄暗い中で、そう言われ、するりと抱き止められる。
心臓が、踊った。
「……や、ダメ」
ちっぽけな理性が、ギリギリ作動する。
けど、唇は求めている。
確かに。
「何で?」
彼の甘い吐息が唇を掠め、頬にかかった瞬間、心が溶け出した。
「好きだよ」
「ダメ」
そう、言っちゃダメ。
「キスしたい」
彼の長い指が、嫌がる唇を制するように、当てられる。
胸が、つぶれそうになった。
「キスしたい。毎日ずっと、我慢してんだぜ? たまんね~よ」
「……」
もう、言葉なんて出なかった。
彼の唇が、まずは頬に触れる。
体が熱くなるのを覚えた。
溶ける。
溶けてゆく。
あたし。
「好きだ」
しっかりと抱きすくめられ、二つの唇が、近づいてゆく。
その瞬間、熱い波が、押し寄せた。
その舌に、一気に飲み込まれてゆく。
彼の唇を、自分の唇に感じる。
密着した体が、たまらなく熱い。
「……好き」
吐息と共に、思わず本心が飛び出した。
胸にずっと秘めてきた気持ち。
もう一人の、あたしにそっくりな誰かのために、抑えていた、熱い本心。
「……判ってたよ。感じてた」
ゆっくり床に倒されながら、彼のその言葉を聞く。
うん、あたしも、判ってた。
だから……
抑えていたの。
彼の唇が、あたしの無垢な肌を滑り始める。
好き。
たまらなく好き。
だけど、これは秘密ね。
二人だけの、永遠の秘密。
好き。
愛してる。
愛なんて、まだよく、判らないけど……。