淫靡な蒼い月

雨音


雨の音がする。


窓の向こうは、無機質なビルの群れ。


終わったはずの恋なのに。


なぜ、こんなに胸が騒ぐの?


なぜ、こんなにも愛しい気持ちになってしまうの?


終わったはずなのに。


吹っ切ったはずなのに……。


突然の雨に駆け込んだ木の下に、あなたがいた。


ほんの雨宿りのつもりだった。


なのに、寄り添って触れた指が、熱くなって……心臓が揺れた。


あなたにはもう、別に彼女がいる。


街角で二人を見かけても、もう、何も感じなくなっていたのに、なのに……。


抱きしめられた腕の中が、たまらなく心地よかった。


「俺は、まだ……」


苦しそうにそう言われ、思わず背中に腕を回してしまった。


愛、してる……?


まだ、


アイシテル……?


判らない。


はっきりしない。


だけど、今、あなたと離れたくない。


雨の音がする。


窓の向こうは、無機質なビルの群れ。


小さな箱のような、ホテルの青い空間。


久しぶりに感じるあなたの懐かしい温もりが、肌を滑る。


もっと、抱いて。


今だけは何もかも、忘れて……。


雨に流れてしまう。


流されてしまう……。


あなたと、このまま、流れてしまいたい。


雨のカーテンに隠された二人。



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