淫靡な蒼い月

眠りの中で



終わりにする。


もう、決めたの。


別の誰かとあなたを共有するなんて、もう、あたしには耐えられない。


「外、暑かったろ?」


氷の入ったグラスにアイスコーヒーを注ぎながら、涼しげに彼が問う。


長い指が、器用にボトルを操ってる。


その指を見るのも


触れるのも、今日で終わり。


このアイスコーヒーを飲み終わったら、あたしは、あなたと一緒じゃない人生を歩む。


そう、固く決意したのに……。


グラスを受けとる指が震える。


――駄目。


気づかれてしまう。


平静を保たなくちゃ。


「……ありがとう」


あたしは、普通にグラスを受け取って、そのままグラスを口元に持っていった。


琥珀色の液体が、喉に流れ込んでゆく。


――飲み終われば、もう……。


そう、言い聞かせて一気に最後まであおる。


気持ちが揺れる前に、ここを出よう。


そう、思った時、突然、視界が歪んだ。


――えっ?


泣いてる?


違う。


涙で歪んでるんじゃ……ない。


眠気だ。


足元から、体が崩れ落ちてゆく。


グラスが床に落ち、氷が散らばった。


「――どこにも、行かせないよ」


くずれる体に背中から回される、二本の腕。


「離さない。……愛し合おう」


薄れる意識の中で、彼の甘い囁きに、瞼が落ちた。


決めたはず……だったのに。


「愛してるよ」


胸を包む掌が、熱い。


気づかれていた……。


もう、駄目……。


これ以上はもう、意識を保てない……。


眠りに落ちる瞬間、唇が重なったのを、感じた……。



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