淫靡な蒼い月

寡黙なチキン



外は雪


室内に漂うチキンの焼ける、いい匂い。


ガタンと、大きく音をたてて、テーブルが揺れた。


「だめ……っ」


衝撃で、グラスが甲高い声をあげる。


「やっ……!!」


後ろから強く肩を捕まれ、ソファに飛ばされる。


軽く頭をぶつけた。


「やめて……っ」


今日は記念日


親友のサプライズ婚約パーティー


朝からその準備に追われていた……。


「離して……っ」


ソファから立ち上がる暇もなく、あたしの胸元の布地が、彼の手によって、大きく引き裂かれる。


「いいシャンパンだ」


空気の弾ける小気味いい音と共に、素肌にシャンパンが降ってきて、あたしは小さく悲鳴をあげた。


「何する……っ」


最後まで言い切らぬ内に唇を塞がれる。


そして、大きくて熱い波に、一気に飲み込まれた。


「時間がない。始めるぞ」


そう言った彼が、次の瞬間――


あたしを強く深く、貫いた。



声があがる。


悲鳴じゃない声が……。



「チキンが……焦げちゃ、う……」


まともな発声ができない中で、激しく揺さぶられながら訴えた。


「……焦げる? いいね。今の俺たちみたいじゃないか」


――そう、あたしたちは、してはならない恋に身を焦がしている。


裏切り者同士


親友へのケーキもシャンパンも、オーブンの中で、焼かれているチキンも


本当なら、全部、この手で燃やしつくしたい。


壊したい。


「凄くセクシーだ」


「こ、ろして……!」


狭いソファの上でのけぞり、あたしは嘆いた。


あなたは、愛してはならない人


愛し合ってはならない人


熱い


彼の熱で焼けてしまう!!


……いっそ、焼け死んでしまいたい。


お願い、殺して……!!


今夜、彼は親友を抱くのだ。


この、宴の後で――


何も、知らない顔で――


彼女の指に約束のリングをはめて


キスをして……!


熱い。


チキンがオーブンの中で、黙ってあたしたちを見ている。


バカにした様子なのを、あたしは快感の中で、確かに感じた……。




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