淫靡な蒼い月

初夏の木漏れ日



緑の葉擦れの音が耳に心地よかった。


ザワザワ


ザワザワ


爽やかであり、よく耳を澄ませると、爽やかな中に“陰”をはらむ――


葉擦れの音は、あたしにはそんな音


梅雨の中休みで晴れた、演劇部室


彼女が、台本を膝に置いたままうたた寝しているのを、見つけた。


開け放たれた窓を覆う緑のカーテンが、まるで小さく切り刻んだ陽の光を、彼女の頬に降り注いでいる。


茶色の前髪に、長い睫毛。


小さく整った顔に似合うピンクの唇が、グロスできらめいていた。


ザワザワ


ザワザワ


あたしの足は、まるで吸い寄せられるように、そこへと進んで行く。


赤いリボンタイが、胸元で風に揺れた。


ギシリと軋む床に、一瞬、足が止まる。


喉が鳴った。


指を伸ばして、そっと、彼女の前髪に触れる。


まるで、怯えるように震えた。


ザワザワ


ザワザワ


怪しく爽やかな、葉擦れの音


あたしはそっと、彼女の顔に、自分の顔を寄せた。


床がまた、ギシリと軋む。


あえて木造にした新校舎


切り刻まれた太陽光の中で、あたしと彼女の影の一部が、ゆっくり、重なった。




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