淫靡な蒼い月

シャワー



降り注ぐ無数のお湯が、顎から胸元へと滑り落ちてゆく。


彼の大きな掌が、お湯の流れとは逆の方向にあたしの肌を撫で上げる。


「ほら、言いなよ」


唇を離してささやく声


「名前、呼べよ」


激しいシャワーの下であたしは、今、抱かれている。


愛しい男の面影を残す、別の男に。


「寂しかったんだろ? このいい身体を毎晩持て余して、やりたかったんだろ? やられたいんだろ?」


淫らにあたしを攻める言葉。


その声も、凄く似ていて、あたしはあっさり上り詰めた。


「何? もう達しちゃったの? まだ始まったばかりだぜ?」


――やめて。


そんなに優しくて甘い声で、あたしの耳をくすぐらないで。


堪らなく感じるから――。


罪の意識が、飛んでしまう。


「兄貴よりも感じさせてやるよ。義姉さん」


「……嫌」


開いた唇にお湯が流れ込む。


「“名前”で読んで……」


そう、もうあたしたちは義姉でも義弟でもない。


ただの男と女――


愛しいあなたはもう、いない。


だけど、よく似た弟を残してくれた。


出会った頃は高校生だった彼も、今はもう大学も卒業した。


これは、卒業祝い。


そうだ。そうしてしまおう。


シャワーの水圧をあげ、彼が局部に大量のお湯をあてた。


「あ――」


駄目。


判らなくなる。


何もかも、どうでもよくなる。


ただ、欲しい。


このお湯の流れと同じだけの熱さと情熱


その声で、指で、舌で、あたしを貫いて


壊して


犯して――




< 43 / 67 >

この作品をシェア

pagetop