淫靡な蒼い月

更衣室



誰もいない、放課後の更衣室。


あの、端正な顔を思い出すだけで、胸が震える。


あの尖った顎。


大きくてくるくる動く、茶褐色の瞳


長く伸びた手足――


眩しい笑顔――


よく笑う唇に白い歯。


でも、見てしまった。


放課後の資料室で、壁に彼女を押し付け、そっと、口づけてる彼を――


彼女も、うっとりと目を閉じ、応えていた。


……一目で判った。


甘く狂おしいキスだと――


角度を変え、唇を動かしながら続くキス


無駄に視力のいい僕は、唇の中で絡まり合う紅も、見てしまった。


そしてそのまま、二人が愛の行為を始め、終わるまで、見続けてしまった。


彼女の肌を舌で味わう彼


乳房を


唇を


幾度も幾度も愛撫し、気持ち良さそうな表情を見せる凛々しい顔


あれがもし、僕だったら――


あの唇や腕に愛撫されるのが、僕だったら……。


憎い。


ただ、女と言うだけで愛される、僕の姉


全身で彼を感じ、淫声をあげる姉


死ねばいい。


死んでしまえばいい。


更衣室のロッカー


僕は喉を鳴らしながら、そっと彼のユニフォームを取り出し、顔に押し付けた


汗の香り


僕の熱が頭をもたげる。


彼の香り――


ユニフォームを強く強く押し当てて、深呼吸する。


鼻腔に広がる甘い香りにうっとりしていた――その時だった。


「やっと見えた」


後ろから強く抱きしめられ、僕は身体を硬くした。


「お前の気持ちが知りたくて、かき乱したくて、お前の姉貴を抱いてたんだぜ?」


――嘘……。


彼の唇が首筋をはい、耳朶を甘噛みされる。


「好きなんだ……」


僕は甘えるようにそう言い、彼の方へと顔を上げ、目を閉じた。


ずっと欲しかった唇が、重なった。


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