淫靡な蒼い月

禁断の朱、銀の針



爽やかな風と共に現れたあいつ。


「元気だったか?」


同じ顔なのに、何だか別人に思えるのはかぜだろう?


髪型と色が違うせいかな、


アメリカナイズされてる。


「日本はやっぱ、蒸すな」


黒のタンクトップの袖を指でいじりながら、運ばれてきたアイスコーヒーに口をつける。


「あ……」


長い金髪に見え隠れする小さな金属に気付き、俺は思わずそれに指を伸ばした。


銀のピアスだ。


「あ、向こうで開けたんだよ。お前もしてやろっか?」


あいつが俺の左耳に指を伸ばして微笑した。


「道具あるから、今夜、やってやるよ」


「……ああ」


返事しながら俺は、あいつの触れた耳朶の異常な熱に戸惑っていた。


久しぶりに留学先から帰国してきた、瓜二つの兄貴。


白のカッターシャツに茶髪の俺と、まるで相反するかのような金髪に黒のタンクトップの兄――


親ですら間違える程似てるのに、今はもう、オセロみたいだ。


問題なく見分けがつく。


「アメリカ人の彼女とか、作った?」


慌ててあいつから目を逸らし、バカな質問をする。


「いね~。……あ」


軽く返事していたあいつが、ふと、ストローを弾いていた指を止め、真顔になった。


「ステディな奴はいなかったけど、何人かと……」


どくん


その言葉に、心臓が大きく揺れた。


何人かと……寝たんだ……。


「親の目はね~し、いいよな」


動揺を隠すため、慌ててそう嘯くと、あいつの指がするりと俺の唇を押さえた。


「本命のためにテクを磨いてたんだ」


ゾクリ


一瞬、瞳に垣間見えた妖艶な色気に、俺の背中を何かが走り、肩が震える。


――本命。


知りたくない言葉。


胸が痛む――と


「今夜、たっぷり、ゆっくり、ピアスの後で教えてやる」


そう言ったあいつが、俺の唇に当てていた指を自分の唇へと移動させた。


「離れてたって、全部お見通しだ」


そう言った赤い舌が――


「俺、うまいんだぜ?」


妖艶な言葉と笑みを称える瞳と共に、俺に触れた指を、静かに吸った――。


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