淫靡な蒼い月
守秘義務
赤いラインが紙の上を滑って癖のある弧を描く。
「うん」
放課後の社会科準備室で、俺は肩をすくめ、座っていた。
「いい点だ。……よく勉強したな」
採点を済ませた担任が、そう言いながら眼鏡の奥の瞳を、少し曇らせている。
「追試じゃいつもいい点取れるのに、何で最初はいつも赤点なんだ?」
この空間にいるのはもう、テスト後の恒例行事。
だって、“狙って”やってんだもん。
アンタと二人きりになりたくて――
「もし一夜漬けでこの点なら、関心しないな」
一夜漬けじゃない。
アンタの教科だけは毎日ちゃんとやってる。
満点取る自信もある。
だけどそれじゃ“二人っきり”になれない。
それに“問題児”の方が記憶に残るだろ?
「毎度赤点だから心配だったが、無事に卒業だな」
窓から見える校庭の樹木を眺めながら担任がそう言うのを、僕はゆっくり、制服のネクタイを緩めながら聞いた。
知ってるよ?
アンタが俺と同じ性癖だってことは。
だって、あの手の輩どもが集う繁華街のバーで、アンタがグラスにカーネーションを差し込むのを見た。
相手は俺くらいの少年……。
いくつか知らね~けど、普通にヤベーだろ?
だけど俺なら、秘密は厳守してやる。
“恋人”にしてくれるなら――
絶対にアンタを後悔させない。
「トシやん」
カッターのボタンをゆっくり外しながら、俺は精一杯の流し目でアンタのあだ名を呼んだ。
「お前なぁ、俺は教師――」
“トシやん”が椅子を回して俺を見た。
動きを止めた唇の足元で、椅子が軋んだ悲鳴をあげる。
「トシやん、“これ”好きだろ?」
ネクタイを外し、カッターシャツをはだけた俺――
はだけた胸元から誘いをかける小さな紅
「なぁ、来てくれよ」
絶句するアンタのネクタイに指を絡め、俺は舌なめずりして見せる。
「我慢できね~」
唇が潤ったのを確認し、俺はそのまま、力強く、指を絡めたネクタイを引き寄せた。
椅子がまた、悲鳴を――あげる。