淫靡な蒼い月
切り札


つまらない生活が一変する。


こんな瞬間が人生に訪れるなんて、思いもしなかった。


アクシデントとは、本当に突然に、向こうから転がってくる。


ブラインドから差し込む夕陽の下、床の上の女は、同僚の理科教師。


ある日の飲み会の帰り、どういう訳だか、この女とこうなった。


それからというもの、俺はこの女との校内での秘め事に夢中になっている。


それまでの俺は刺激に飢えていたから、お陰で今はたまらなく充実している。


しかも、彼女は若い。


このアクシデントをこれからも永続させない手はない。


最初の夜に、頭に閃いた思い。


どちらが先に誘ったかなんて、二人とも酒のせいで最早判らないのだ。


俺はその時、妻子を忘れ、素早く計算した上で、携帯にこの女の“恥ずかしい”写真と動画を納めた。


切り札としては有効すぎるくらいのいい素材だ。


しかし、美しい。


切り札さえちらつかせれば、この女は従順だ。


女もバカじゃない。


やっと就いた教職を、簡単には手放さないだろう。


賢い選択だ。


それにしても、妻とは違う、この張り、このみずみずしさ。


ああ、いい――。


たまらなく、興奮する。


“狂い咲き”とでも言おうか。


やめられない。


この女が枯れるまで、吸い続けてやろう。


切り札は手中にある。


俺の勝ちだ。


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