Seven Colors
* * *
アキラは信じなかった。
二時間前。アキラの思考回路は、それによって乱され狂わされ、正常が消えてしまった。
本人も意識せぬまま闇夜に踊り出、身体が動くがままに眠りの街を走った。走った。それはいつしか暴走に変わり、夜更かしの人々の目に恐怖を植え付けた。
恐怖の源は、気付けばアキラ自身から発生していた炎である。
身体が燃えている。しかし自分は生きている。この世の法則から大きく逸脱した目の前の現象に、アキラは戸惑いはしなかった。
そんなことよりもアキラは信じたくない不幸を目の当たりにしたばかりであったから。
いっそこのまま燃え尽きて炭になって死んでもよい。そう考えていたのである。
そして、今。
アキラは顔面を中心に水を浴びていた。
「やはり水をかけたら落ち着いたな。こんな子供だましさえ使い方次第では街の安全に繋がるとは」
茫然と、黒王の言葉が耳を通過するのを感じる。
訳がわからぬまま、体に力がはいらなくなったアキラは地に膝をついた。
アキラをまとっていた炎は次第に弱まり、消えてゆく。地面に散った火の粉がわずかに残り、光の源がない道は再び暗闇へとその姿を変えた。
「落ち着いたか。ったく、どうしてまたこんな暴走を――」
黒王は呆れた様子でアキラに近づく。
そしてアキラの腕を引っ張ろうとした、その瞬間。
それは確かにアキラの口から出た言葉であった。
「父さんが……父さんが、死んでる」
闇夜に吹く風は冷たく、静寂に包まれた二人の間を静かに通り過ぎたのであった。
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