Seven Colors

「水恐怖症?」


 白石は電球が切れかけた薄暗い廊下を走りながらそう言った。前方の黒王はつかつかと速く歩を進めている。


「ええ。彼、暁明は重度の水恐怖症です。水を目の当たりにすると体に力が入らなくなるとか」

「なるほど。だから水鉄砲で水をかけた瞬間、膝をついて座ったんですね」

「海には近づきすらしません。海に面したこの街では生きづらいでしょう」

「あ、そうか」


 白石はふいに立ち止まった。偶然か白石の頭上の電気は白い光を放っており、輝く白石の瞳で反射する。


「あの交差点、海に近づかないのは左折だけ。だから黒王警部はあのとき左折だって言い当てたのですね!」


 と、自ら導き出した答えを投げかけるも、そこに黒王はいなかった。

 白石の視界が捕らえる黒王はすでに小さくなっていた。はるか向こう、足の長い黒王は先へ先へと進んでいたのである。


「ちょ、警部ー! 置いていかないでくださいよー!」


 遠くで響くその声に構わず、黒王は歩く。腕時計は間もなく四時を知らせようとしている。いつもなら寝ているな、とため息をついた。

 海町警察署。二十四時間、街の平和を守るその機関は、今宵も忙しそうであった。

 しかしこの時間に建物内をこれだけの人が行き来するのは珍しい。これには理由があり、黒王が歩を速める理由でもある。

 暁大地(46)の遺体が発見されたのだ。


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