ビター・スイート・ラヴ
「急なんだけど、今日って、予定ある?」


「ごめんなさい。今日はちょっと都合悪いの。どうかした?」


「別に大した用事じゃないんだけど、たまたま渋谷まで来たものだから‥。
確か、あなたの会社がこの近くにあることを思い出して、それで電話してみ
たのよ。また、連絡するわ」


「分かったわ。それじゃあ、また」



 電話を切ったものの真っ直ぐ家に帰る気もしないし、暮れゆく町並みを
デパートの紙袋を提げてぶらぶら歩いた。



 行き交う男女は皆、それぞれの目的地に向かっている気がして、
由香はちょっぴり淋しくなった。



 あっ、そうだ。あのショットバーに寄ってみよう。あそこなら、ここから
近いし、時間も少し早いけど軽くビールを飲んで帰ればいいと思った。



 早速、空車のタクシーを捕まえ行き先を告げた。




 地下のお店のドアを開けて中に入った。まだ時間が早いせいか客は
カウンターにまばらにいるだけだ。

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