シャクジの森で〜青龍の涙〜
「君の兵士たちには世話をかけたな。礼を申す」

「あぁ、いや、あまり役立たずすまん。しかし、敵も浅はかだな。未遂であるのに、君はこの国一つ潰しかねん勢いなんだ。成功していたらどうなっていたか、恐ろしくて、私は想像もしたくないよ。完全に、敵にする者を間違っている」

「・・・彼には、それほどに欲っするものがあるのだろう」



――――消えない欲望。


今回の件、レオナルドもアランも敵の目星は付いていた。

ビアンカではない、彼女は利用されているだけだ。

問い詰めても“詳しいことは知らぬ”と情報を得られないままに終わるだろう。


アランの脳裏に、ある人物の顔が浮かぶ。


賊を雇える力を持ち、小国とはいえ、ヴァンルークス王女の胸元にも手を伸ばせる人物など数少ない。

まだ証拠はないが、あの“野望を持つ男”の仕業だと二人とも考えていた。

この国に来た当初、レオナルドから“彼”の姿を見たと聞いた時は、アランとしては“まさか”と思っていたのだが。

彼がこの国にいるのならば、その目的は自ずと導かれる。



「全く、見上げた執念だよ。手に入れたとしても、どうにも出来んだろうに・・・」



レオナルドは、腕を組んで首を傾げた。

エミリーは既に人のものなのだ。

しかも、悔しいことにアランにベタ惚れときている。

それがどうにかできるならば、アランには悪いが自身が一番に手を伸ばし攫って行くのだ。

幸せにする自信は、溢れ出るほどにあるのだから。

まあ、そんなこと、実際には出来ないのだけれど。

攻め入られて国が滅ぶところを想像してしまい、必死で打ち消して再び真面目に考え始める。

それ以外の目的があるとすれば・・・・。


――――そうか、新たに国をつくる気か?いやいや、まさか―――



「・・・ふむ、どうにもわからんな?」

「彼は、そうでないと思ってるのだろう。それゆえに、手を出してくるのだ」

「アラン、残りの滞在期間中ルーベンの兵をここの警備にまわそう。“兵の数は国の威厳をも示すのですぞ”と、私には要らんくらいにぞろぞろと付いて来たのだ。威厳など、今更良いと言ったのだが――――だから、大いに使ってくれ。ウォルターの指示を受けるよう、命じればいいな?」



全く、爺のすることも少しは役に立つものだな。

そう言ってレオナルドが肩をすくめておどけて見せるので、場の空気が少しだけ柔らかくなった。



「あぁ。頼む――――」


アランはレオナルドの申し出を有り難く受け、気を落ち着けたところで再び本館へと足を向けた。

人も、人ならぬ者も。エミリーを欲しがるならば、精一杯に抗い守るまでだ。

アランは決意を新たにした。
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