シャクジの森で〜青龍の涙〜
平原の遥か向こうの光りの先をじっと見つめる。

何かがだんだん近付いてくるのがわかる。

最初豆粒のようだったそれは、次第に人の形を成していって――――


サラサラと動く銀髪。

あの日出掛けた時と同じ服装。


ちゃんと姿を見たいのに、怪我がないか確認したいのに、視界がぼやけてよく見えない。

溢れ出る涙を拭いて、エミリーはアランに駆け寄って胸に飛び込んだ。



「アラン様!」



胸に頬を埋めれば、あたたかくて逞しい腕がふわりと包み込む。



「・・・まことに、エミリーなのか?幻ではないな?」



遠慮がちな腕と声。


エミリーは、アランの頬をてのひらで包み込んだ。


土で汚れてちょっぴり怪我をしてる。

疲れは見えるけれど、深いブルーの瞳は輝きを失っていない。



「幻ではありません。ほんものです」



エミリーは、精一杯背伸びをしてアランに口づけた。

ぴく、と一瞬体を震わせたアランの腕に、次第に力が籠っていく。

ぎゅうっと胸が苦しいくらいに抱きしめられ、大きな掌が後ろ髪に差し入れられ、口づけは深くなっていく。


何日ぶりかのアランの口づけ。

激しく深いそれは、エミリーの全身の力を抜いて行った。

頬にあった手は力なく垂れ下がり、アランの腕の力でやっとこ立っている状態になる。

アランはそんなエミリーを抱き上げ、なおも口づけを続けた。

互いに会えなかった時間を埋めるように続いたそれは、エミリーが意識を失う寸前に、ようやく終わった。


ぼーとするエミリーの瞳に、動く唇が映る。



「何度も、君の幻を見た」

「なんども・・・?ほんとう?」

「そうだ。手を伸ばして触れれば掻き消えた。それゆえに、君を見ても、にわかには信じられずにいた」



優しく見下ろすアランの瞳が、急に、す・・と細まって形の良い眉が歪んだ。



「怪我をしておる」

「え?そんな、大変だわ。腕ですか、足ですか、体ですか。アラン様、私、下ります。下ろしてください」



下りようともぞもぞと身動ぎをするエミリーの身体は、余計にがっしりと抱えられて元に戻された。

そのまま、アランは「ヴァンルークス・・・シャルル、付いて参れ」と不機嫌そうに呟いてすたすたと歩き始める。



「ぁ、アラン様?怪我が―――」

「何を申しておる。動くでない。怪我をしておるのは君だ。足も手も傷だらけだ。それに、服はどうした?」

「その、急いでいたので、着替えてません。怪我は、森を通って、箱を壊したりいろいろとしてて・・・」

「全く、君は・・・」
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