死神少年

｢お前がいくら鮮やかに男を殺そうが､どんなに上手く殺そうが､そんなものはテストの評価基準には一切入らない｣



ジノは壁から背中を離し､一歩一歩ゆっくりと近づいてくる｡


動けない｡

その瞳は､僅かな震えさえ封じさせていた｡

まるで､蛇に睨まれた蛙だ｡



｢わかるか?｣



ジノが俺の顎を摘んで､それを無理矢理引き上げる｡



｢俺が問うのは､技術や技能なんかじゃない――意志だ｡｣



顎を無理矢理上げられているため､上手く声が出せないのを､何とか絞り出す｡



｢……意志?｣



すっとジノの指が顎から離れたかと思うと､奴はくるりと踵を返す｡


俺は喉を摩りながら奴の細い背中を睨んだ｡奴は上半身だけこちらに振り返る｡



｢そう､意志だ｡ あんたがいかに､人を殺す事に意志を持てるか､それをテストする｣



殺人に意志も何も無いだろうが､バカ野郎｡
心の中で悪態をつく｡



｢人を一人殺すのに､いちいち慈悲心を持ち出すような役立たずはいらない｣

｢ふーん､なるほど……俺がその役立たずかどうかを､あんたが見極めてくれるわけだ｣

｢それが仕事だ｣



奴にもうあの瞳はない｡あんな身も凍るような瞳に見つめられるは､一度でたくさんだ｡



｢もう一つ質問したい｣



俺は自分の顔の真正面に人差し指をピンッと立てる｡ ジノはニヤニヤと笑いながら｢なんでございましょう｣と茶化す｡



｢もし､俺が佳山を殺せなかったら､本当に何も代償は無いのか?｣

｢さっき言った事､信じてないんだ｣

｢話がうますぎる｣



ジノは肩をやれやれと竦めると､小さく笑った｡



｢そうだな､魂をもらうとか､そういう古典的な真似はしない｡安心しろ｣



｢ただし｣ジノは壁側に向けていた体を瞬時にこちらに向ける｡

再びゆっくりと､まるで獲物を狙う蛇のように詰め寄る｡



｢あんたが､もし失敗したら……その時は､即テストを終了して､俺はあんたの前から永久に姿を消すさ｣



俺は目を見開く｡それは､最も最悪な状況を意味する言葉だった｡