死神少年
ジノは俺の後ろに立つと、俺の両肩にそっと手を置き、耳元で囁(ささや)く。



「そうなったら、あんたは死神になれなくなっちまうな? ふふっ……あんたは無力な少年のままだ。無力なあんたはガラスの向こうの彼女に触れることすら出来ずに、愛しい彼女の死を嘆く事しかできない。」



くっくっと愉快に笑うジノの声が耳障りだった。


立ち上がり、振り返ると奴の姿はもうない。



「もっとも」



振り返った俺の背後で声がした。向き直ると奴は壁に背中をもたれて腕を組んでいた。



「失敗しなければいい話だが」



ニヤッと奴の口元が大きくつり上がる。


俺は椅子から立ち上がると、先ほど渡された佳山の写真を握り絞める。



「……失敗なんてしない。俺は、必ず死神になる」



ジノは面倒臭そうに顔を歪めると、まるで足元に縋(すが)り付く野良猫を追い払うように、手を振る。



「わかったから、そう熱くなるなよ。質問はもうないか?」


一応、顎に手を当てて考えてみる。



「……ないな」

「なら俺はもう行く」

「何処へ?」

「散歩だよ。今夜は月が綺麗だからな」



そう言って、ジノは窓を擦り抜けて外へと姿を消す。


ジノが消えた直後、俺は崩れるようにベットに体を倒す。重みで、ベットが小さく軋む。


タオルケットに埋めた顔を天井へ向ける。 これから、これからだ。
もう後には戻らない、振り返りはしない。前だけを向いて突き進まなければならない。始まったのだ。



「おい、生きてるか」



先ほど出ていったジノが体を半分窓から覗かせた。


窓と体の境目は、水辺に小石を落としたように小さな波紋をうっている。



「あんたに話しとかなくちゃならない事があったのを思い出した」



言いながら、ジノは窓から全身を透り抜け入ってくる。やけに慎重な声だった。



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