遊びじゃない

「…ん…柏木さん?」

遠目には格好いいから私だってチェック済みだけど、でも各部署で狙っているお姉さま方がいるからムリに参戦するまでもなく、仕事上の会話をしたぐらいの相手。

だから、私の名前を知っていることに少しだけ驚いていた。

寝惚けたようなぼんやりとした口調の後、わずかに眉間に皺を寄せる。

「起こしてすみません。もしかしたら具合が悪いのかと思って…。」

眉間の皺が、起こされて不機嫌になったからだと理解したので、慌てて頭を下げて1歩後づさる。

するといつもは営業的にしか崩すことのない整った顔立ちが、恥ずかしそうに苦笑する。

「アタリ。昨日から熱っぽいんだけど、どうしても今日外せない用があってさ…でも、さすがに頭が働かなくて…。」

「頭、痛いんですか?」

会話の途中にも時々眉根を寄せる苦しそうな表情に、自分には皆無と思っていた母性本能らしき感情が湧き上げる。


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