遊びじゃない

「ほんとにね。こんな紙切れ持ってくることがそんなに億劫なのかしらね。」

きっと仕事が遅い所為でこうやって細々したことが疎かになるんだ。

それでも、黒縁眼鏡の奥の瞳は人懐っこく細められていて、私の言葉など気にも留めてないようで、やっぱり憎めないなって思ってしまう。

「今度お礼にご飯でも奢るよ。」

そう言われて、同じ台詞でも言う人によって随分印象が違うものだと思う。

麻生さんに言われたら、洒落たダイニングやイタリアンなんかが浮かび、その後の何かを想像したり期待したりするものなのに、この男に言われても普通の定食屋しか浮かばない。


そんなことを考えて返事をしないでいると、私が訝んでいると思った男は慌てたように手を振る。

< 63 / 266 >

この作品をシェア

pagetop