届カナイ愛ト知ッテイタノニ抑エキレズニ愛シ続ケタ…

「…。」

言葉にならない。

両手でハンカチを取り涙を拭った。

「…帰って…いいぞ。」

かみ締めるかのように、男は口を開き立ち上がった。

大きな目を倍くらい大きくさせ、驚きながら男を見る。

「ありがとう。」

そう言いながら立ち上がり、男の前まで歩いた。

そっと両手で男の手を取り

「ありがとう。」

小さくつぶやきながら震えていた。

ポタ…
ポタ…

握り締められた手に、流れ落ちた涙がとても温かく弾け散った。

スルッと手をほどき、震える肩を支えながら警察署の玄関口まで送ってもらった。

ずっとあたしの震える背中を心配しているようで、玄関口で立ち尽くしながら見送ってくれた。

あたしは警察署の門まで行くと振り返り、何度もお辞儀をしながら帰って行った。

くるりと警察署を背にすると、ぺロッと舌を出し小さくVサインをした。

まさか、あんな誰も信じないような嘘にダマされるとは…。

バカな警察官。

でも…どうしてだろう?

忘れていたあの人を思い出させるのは…。

キュンと胸の奥に閉まってあった何かが、切ない痛みを響き始めた。


< 464 / 570 >

この作品をシェア

pagetop