新撰組のヒミツ 弐
はっきりと覚えている訳ではない。こうなる直前の記憶だけに靄がかかり、光が思い出すことを著しく妨害しているようだった。


自分はどうやら膝を着いている。


制服のスカートから覗く膝に土が付き、その裾には汚い泥や土が付着しており、綺麗だったセーラー服はすっかり汚れていた。


「ここは……」


立ち上がって汚れを払うと、人こそ居ないにしろ、当たりの建物や風景が変に妙だということに気付く。


低い瓦屋根や、年季の入った小屋の棟。
土手の脇には川が流れ、久しく聞かなかった鳥の囀りが後ろから聞こえてきた。


眼下を眺めれば、賑やかな街があった。


経緯も分からず、知らない間に見慣れない場所に来たのか、と不安になっていたのだが、人がいるなら安心である。


しかし、街にいる人たちを目にすると、安心していた光の表情は堅くなり、ついには見苦しい程に狼狽することになった。


「な、何……何なの……!?」


人々は着物を身にまとい、男は現代では見かけない月代をしている者たちがたくさんいるのだ。


様子がおかしいと感じた光は、出て行くのにも勇気が出なかった。


(ここはどこ……?!
何であの人たちは着物なの?!)


足元に忍び寄る不安を感じ、光はただ座り込んでしまった。持っていた鞄を開けると、中にあるものを素早く確かめる。


数冊の教科書。ノート。筆箱。


携帯電話。化粧品。最早空に近い水筒。素早く携帯電話を掴み、画面を見る。


恐る恐る覗いた画面には、光を絶望の縁に叩き落とすような文字──圏外──が表示されていたのだった。


確かに、電柱が立っていない。
この情報社会に電波が無い……?


山中でもあるまいし、それこそ有り得ない。見渡す限り、低い建物が続いている。


超自然の事柄を信じない彼女の脳裏には、思わず自分の頭が正常か疑ってしまう一つの言葉が思い浮かんでいた。





まさか、あたしは──……、





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