烏鎮(うーちん) 上海水郷物語2

姉妹

「なんで?どうして、いまこれを?
これは私達の母が持っていたもの」

静江はうなずきながら涙も拭かず祖父の手帳
を取り出した。中を開いて美麗さんに手渡す。

「私は日本語分からない。なんと書いてあるんだ?」
静江は顔を横に振る。
「うまく説明できません」

そのとき姉が、お前の息子と叫んだ。
美麗さんも大きくうなづいて、

「明日もう一回ここに来てくれ。私の息子は
日本語を勉強している。上海から今晩帰って
くるから、それまでこの手帳と写真を」

「そのまま受け取っておいてください。
私は明日この時間にここに又来ます」

静江はそう言って染物工場を小走りで出た。
石畳の上であらためてハンカチで顔を拭いた。

「これで良かったのかしら?川に捨て
られないでごめんなさい、おじいちゃん」

空を見上げると薄曇りの中に祖父が笑って
うなずいているような気がした。
< 13 / 32 >

この作品をシェア

pagetop