call my name



「俺さ……夏希と付き合うことになったのよ」


その一言を聞いた一瞬がどれだけ長く感じただろう。

絶句した、との形容が一番正しい。

何もいうことができなかった。

こころの中でだけ、嘘でしょ……と呟いた。


二人が何か言っているが、耳に入ってこない。

自分が何を言ったのかも覚えていない。


ただ、一つだけしっかりと聞こえたのは、「これからも、三人一緒は変わらないようにしよう」ということだった。


変わらないって、何が?


一緒って誰と?


関係は変わったんだよ?


あたし、何て言った?


ぐるぐると同じところで思考がループしている。

自分の気持ちが何かによって消されていくように感じる。

押しつぶされるような想いが胸の中でいっぱいになる。


喜怒哀楽の激しい方ではないと思うし、実際泣いたことはあまりなかったけど、これだけはさすがに我慢は無理だった。

二人が帰ってから、声を押し殺して泣いた。

消されるくらいなら、と自分でこの想いに蓋をするように泣いて泣いて、苦しさを吐き出した。

仕方ないと自分に言い聞かせながら。

吐き出しきれはしなくて、いつの間にか泣き疲れたのかあたしは眠っていた。


気付くと、部屋は暗くなっていて、カーテンの隙間から覗く綺麗な三日月と冬の星座たちがあたしを見ているような気がした。


やっぱり苦手だ、悲しむのも泣くことも。


昔から、どれだけ少しのことでも泣くと、今日みたいに眠ってしまう。

身体も思考もすべて停止してしまうのだ。

握りしめたままのネックレスを身に付け、月明かりでそれが輝いた。
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