call my name
「紗雪ちゃんはさ、カレシとかいんの?」
隣にいた何年生かよくわからない男子の先輩が質問してくる。
この人はここで最初に話した時から苦手だった。
ずかずかと人のプライバシーに踏み込んでくる。
酔っぱらっているのかどうかわからないが、正直鬱陶しかった。
「さぁ、どうでしょうね」
適当にあしらおうとするが、「絶対いるでしょー」と食付いてくる。
イライラしてくる。
どうでもいいだろ、そんなこと。
「ちょっとトイレ行ってきますね」と話を切って、トイレに向かった。
近くの公衆トイレに入り、扉を閉めて溜め息を吐き出した。
何イライラしてんの、あたし。
別に関係のないことなんだから、流していればいいのに。
少し苦しくなったのは、あの時を思い出したからか。
過ぎたことなのに。
目を閉じて、心を落ち着ける。
少しイライラして熱かった頭が冷めて、思考が冴えていく。
もう、大丈夫だ。
帰ってきたら、別のグループにあたしは混ざった。
少なくとも、あの先輩のところには行きたくなかったから。
せっかく落ち着けたのに、かき乱されてまたイラつくのも馬鹿らしいと思った。
そこでは、よく飲まされた。
ゲームをしていたのだが、ルールがよくわからず、負けて飲まされ、飲まされては負けるの繰り返しだった。
自分の許容量がよくわからないため、とにかく言われるがままにお酒を口に運んだ。
次第に思考が鈍ってくる感じがわかった。
さっきまでの冴えていた頭に何か靄がかかったようになっている。
浮いてる感じが身体を包む。
お酒を飲むと楽しくなるっていうのはこういうことなんだろうか。
暫くそれを続けていると、一気に気持ち悪くなった。
何とも言えない不快感が胃の中から込み上げてくる。
我慢できずに、トイレに行こうとした。途中、例の先輩に捕まりそうになったが、無視してトイレへと向かった。
駆け込んで扉を半ば強引に閉め、突っ伏すように洋式便器の縁にに手をついた。
吐き気が一気に訪れる。
ここまで気持ち悪いのも生まれて初めてだった。
インフルエンザの時にも吐き気がしたが、それ以上に気持ち悪かった。
トイレから出て、ふらつく足のまま少し歩いた。
側にあったベンチに倒れこむように腰を下ろした。
気持ち悪すぎる……。
眉間に皺を寄せ、目を閉じてこめかみに手を当てる。
「……ぶ……か?」
何か声が聞こえる。
ダメだ、目を開けられない。
少しずつ身体が傾いていくのが分かる。
それを止めることはできなかった。