cafe au lait
「そうだトーコさん」
「十和子です」
君が振り返る。
私は日比谷 十和子だ。二十五歳。この小さな田舎街で、小さな工場(こうば)の事務員として働いています。毎朝通勤前に、この小さな喫茶店にやってくる。それが些細な日課です。と、目で訴える。
私は、君より年上なんだから日比谷さんと呼んでくれてもいいと思う。
「あのウッドチェアが調子悪くて、座るとギシギシ音がするってお客さんから苦情言われちゃって」
彼は蛇口を捻ると、その綺麗で長い指を丁寧に洗う。
「修理をお願いしたいのですが、運べる車がないんです」
真っ白なタオルで、包み込むようにその手を拭くと彼は愛想笑いをうかべた。