君の知らない空


江藤が振り向いた。
オバチャンらと私の様子に目を見開いたが、すぐに笑顔でひらりと手を振る。


山本さんと野口さんも、にっこり笑って手を振り返す。さっきまでの怖い顔はどこへやら。


笑った江藤の頬の絆創膏が引きつっている。半袖のシャツから覗いた肘にも、何枚か絆創膏が貼られて痛々しい。


「せっかくの男前なのに……痕が残らなかったらいいけど」


去っていく江藤を見つめながら、山本さんが呟いた。


ところでオバチャンらは何故、私をここに連れてきたんだろう?


「江藤君、白木さんのこと狙ってたの知ってるよね?」


唐突に振られた私は、すぐに答えられない。言葉を探しているうちに、山本さんが口を開いた。


「白木さんって、本当は彼氏居るんでしょう? 宴会では居ないって言ってたけど、居ないはずないじゃない?」


何か根拠があるかのような力強い口調。
まるで美香の彼氏を見ていたのかと思わせる。


「何で居ないなんて嘘ついたのかしら、正直に言えばいいのにね」


だから、何を言いたいの?
私が美香から彼氏が居ることを聞いていたかを確かめたいの?


だったら正直に言おう。


「あの……私も彼氏が居るなんて聞いたことないですけど……江藤君が白木さんを気にしてるのは、なんとなく気づいてました」


宴会の後、月見ヶ丘駅前で彼氏らしき人と一緒だったことは言う必要はないだろう。
美香が江藤のことを好きかもしれないと言ったことも。


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