君の知らない空
「橙子? 何してんの?」
ふいに投げ掛けられた声に驚いて、背筋を伸び上がる。その拍子に携帯電話が手から離れて、机の上に転がって大きな音を立てた。
振り向くと声の主は、私の反応が予想外だったのか目を丸くしている。
すらりと背の高い若い男性。華奢な体型に余裕のある半袖のシャツ、ネクタイを締めた姿がよく似合う。
さっきまで汗が止まらなかった私とは違って、ちっとも汗などかいていない。暑ささえ感じさせない涼しげな顔。
「桂(けい)……」
彼の名を呼んだ。
呼ばれた彼は安心したように、にこりと笑った。とても懐かしい笑顔で。