君の知らない空



彼が涼しげな顔をしていた訳は、すぐに分かった。


淡い水色をした小さな車の中はまだ新車の匂いがして、寒いほどエアコンが効いている。これじゃあ、汗なんか出るはずもない。


桂一の運転する車の助手席で、私はエアコンの噴き出し口から猛烈に出てくる風を顔いっぱいに浴びていた。


暑さから解放された安心感、職場まで歩かずに済んだという安堵感とともに、彼と何を話せばいいのかという迷いが頭の中でぐるぐると追いかけっこしている。


「びっくりしたよ、こんな時間にあんな所にいるなんて……しかし、通勤時間に人身事故って災難だよな」


沈黙を破ってくれたのは桂一。
思ったより明るい声で話してくれるのは、私に気を遣ってくれているからだろう。


「そうなのよ、月初めの会議があって忙しい時に、ホント迷惑だよ」

「それで職場まで歩こうと思ったのかよ、橙子はチャレンジャーだなぁ、何時間掛かるとか考えたら分かるだろ?」


小馬鹿にしたように笑い出す桂一の横顔は、あの頃と何も変わらない。



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