君の知らない空
港を離れた船上での非日常的な時間が、私を優越感に似た幸せな気分にさせてくれた。
桂一と一緒に居られることが、こんなにも楽しくて幸せなんて。
でも、心の隅では気になっていた。
私たちが食事をしているフロアとは違うフロアには、私たちよりももっと幸せな二人がいる。
私たちもいつか……
桂一と付き合い始めて三年。
私も一年前に就職してたし、そろそろ意識せずにはいられなかった。
食事を終えた私たちは、デッキから港を眺めていた。
「あそこから始まったのかぁ……なんか運命感じるかも」
桂一が、対岸に小さく見えるショッピングモールを指差す。
「そうだよね、あそこでアルバイトしてなかったら私たち、今どうしてるんだろね?」
ショッピングモールの中のアイスクリーム屋さんでアルバイトしなければ、私たちの出会いはなかった。
「そんな言い方するなよ、俺はよかったと思ってるんだから……橙子と出会えて、こうして一緒に居られること」
ふわりと笑顔を見せた桂一が、肩を寄せる。息が触れるほどの距離に胸が高鳴る。
「私も、桂一と居られて幸せだよ」
耳元で告げると、桂一が顔を覗き込む。
何? こんな所で?
唇に近づいてくるのかと思って構えたら、
「橙子、結婚しような。まだ就職したばかりだから無理だけど、俺、頑張るから待っててよ」
桂一が、まっすぐに私を見つめてる。
包み込んでくれるような優しい笑顔で。
じんと胸が熱くなって、私は何も言えずに頷いた。