君の知らない空

桂一は頬杖をついたまま、口を噤んだ。


あの時に似ている。
桂一と別れ話をした時に。
あの時も私が桂一に詰め寄って、答えを聞き出そうとしてた。
でも答えは得られなくて……


そう思うと余計に、重苦しい空気に押さえつけられるような感覚に襲われる。
耐え切れず、大きく息を吐いた。


「彼女は、乗っ取ろうとしてる関連会社の社長の娘、俺の会社の社長の彼女だよ。いや……もしかしたら人違いかもしれないけど」


桂一がぼそっと発して、目を伏せる。
最後の方が聴き取りにくかったけど、驚くべき言葉だった。


あの人が彼氏だったんだ。
美香の歓迎会の帰りに、駅前で見た男性の姿が思い出される。金曜日に病院の玄関ですれ違った時、間近で見た綺麗な顔立ちの人。


「美香の彼氏……桂の会社の社長って、背が高くて綺麗な顔してる人? 車は白くて大きな外車、ベンツ?に乗ってる?」


はっとして顔を上げた桂一の口元が僅かに震えてる。さっきよりも見開いた目が、何か言いたげに私を見据える。


「橙子、知ってるのか? ベンツじゃなくてBMWだけど……何で知ってるんだ?」


桂一が少し身を乗り出した。
私が知ってたら、そんなにおかしいのだろうか。


「いや、全然知らないよ。ただ、美香と一緒にいるところを見かけただけ……あの、一緒にいた人たちは桂と同じ会社の人? すごく厳つい感じの人たちだったけど?」


と尋ねたら、桂一の顔に焦りの色が見えた。


「まぁ、そうだけど」


ぎゅっと唇を噛んだ桂一を見て、これは話せないことなんだろうと感じた。


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