君の知らない空
本当は、騙されていたのだろうか。
ぽつんと胸の中に浮かんだのは虚しさ。
桂一の会社の社長と美香が付き合ってて、美香のお父さんの会社が私の会社を乗っ取ろうとしてる。
どうして私の会社なんだろう。
美香が彼氏はいないと言ったこと。
あんなに素直で、真面目に仕事を頑張っていたこと。
私は美香のいいところを知ってるのに。
それなのに桂一に聞いた話をどう解釈しても、美香に良いところは見出せない。
「どうしたらいいんだろ……」
ようやく発した声は小さくて、桂一に届いてはいなかったかもしれない。
突きつけられた事実といろんな思いが、頭の中をぐるぐる巡るばかりで言葉に出来ない。事実を事実として認識出来ないばかりか、受け入れられずにいる。
まるで自分が、ここではないどこかにいるような感覚。これを現実逃避というのだろうか。
椅子の背に体を預けて、窓の外へと目を向ける。真っ暗な中を過る車のライトと照らされた歩道を歩く人を漫然と眺めて、気持ちの整理をするように。
すると駅へと向かう歩行者の流れに逆らって、颯爽とすり抜けていく一台の自転車。
穏やかさを求めていた胸の奥が、ぐらりと揺らいだ。
彼かもしれない。
咄嗟に目で追った。
見え隠れしていた人の流れの中から、ひょこっと自転車が飛び出す。
自転車に跨った男性を確かめた途端、胸の高鳴りが一気に消えていく。
彼ではない。
落胆とともに、再びもやもやした気持ちが蘇ってくる。
顔を上げたら、桂一が私を見ていた。