君の知らない空

私の会社が乗っ取られてクビになるかもしれない不安よりも、桂一の仕事が大丈夫かと思える。


それなのに桂一は、


「そう、楽だろ。その後、特別手当って名前の報酬が貰える。見つけた人はリストから消えることもあるし、消えないで引き続き探さなきゃいけないこともあるし」


と少し口角を上げて言う。
自分に言い聞かせようとしているのか、それとも先輩の肩を持っているのか……


南町駅の近くのコンビニで拾ってくれた時、桂一が『続けられたら……』と言ってたのは本心ではなかったのだろう。
きっと、自分に言い聞かせている言葉だったんだ。


「橙子、俺が話したことは絶対に誰にも言わないでくれよ、分かった?」


「分かってる、誰にも言わない。私の会社のことも、教えてくれてありがとう」


そんなこと言えるはずない。
但し、もしクビになった時のために、今後の身の振り方を少しは考えないといけないのだろうけど。


「ありがとう、俺も何とか頑張るから、橙子も仕事のこと考えて……いい仕事があったらいいな」


桂一の笑顔を見たら安心して、少しだけ胸で疼いていたものが消えた気がした。


「桂も、無理しないでね」


本当は、『辞めたら?』と言いたい。
だけど私はもう桂一の彼女でもないから、そんなこと言える権利はない。
せめて無理をしない程度に、ほどほどに頑張ってほしい。


桂一のために何かできればいいと思ったけど、彼のことは絶対に話してはいけないように思えた。
たとえ桂一にとって、プラスになると分かっていても。


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