君の知らない空


店を出た後もずっと、桂一は辺りを見回して何かを気にしている。自然と私たちの会話も減り、ただ漫然とショッピングモールの中を歩いていた。


きっと見た目は、ぶらりと散策しているカップルだろう。桂一もそれを装おうとしているに違いない。


でも、私は知ってる。
桂一は何かを探しているんだ。
見上げた桂一の横顔は強張っていて、とても聞けるような雰囲気ではない。


それでも桂一は私の隣にいて、並んで歩いてくれてる。痛い足を庇いながら歩く私に、スピードを合わせてくれる優しさが辛い。


やがて広々とした通路の真ん中に、点々とベンチが並んでいるのが見えてきた。
ちょっとだけ座りたいな……と思ったら、


「なあ、橙子、ちょっとだけここで待ってて、すぐに戻るから」


と、桂一が足を止めた。
私が足手まといになったんだ。


「どこに行くの?」


尋ねると、桂一は顔を寄せて声を落とした。


「ゴメン、トイレ。すぐ戻るから」


桂一、ウソついてる。
わかってたけど、私は気づかないフリをして笑った。


「わかった」


ほっとしたように微笑んだ桂一が、くるりと背を向ける。早足で遠ざかってく背中を見送りながら、私はベンチに腰を下ろした。


明るい日の光が差し込む吹き抜けの天井を見上げて、大きく息を吐く。疼いていた胸が、少しだけ軽くなったように感じる。


目の前には天然石のアクセサリー店。店内に客の姿は疎らで、店員の数の方が多いのではないかと思える。


そうか、今日は平日なんだ。
少し前に来た時は、もっと賑わっていたのになぁ……と手繰り寄せた記憶の中に浮かんだのは彼の姿。



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