君の知らない空
「そうだったんですね……捻挫、辛いですよね。私も学生の頃にバスケしてたんですけど、よく捻挫しましたよ」
事情を話すと、沢村さんは大きく頷いた。
沢村さんと並んで座る私の手には携帯電話。桂一からの連絡はない。ほんの僅かでも呼び出し音は聴いたのだから、桂一の携帯電話も鳴ったはずなのに。
「だから、当分行けそうにないんです……せっかく、いろいろ教えてくれてたのにすみません」
「そんなの気にしないでください、治ったら来てくださいよ、待ってますから。あっ、そうそう……あの人覚えてますよね?」
沢村さんの言うあの人とは、小川亮のことだとすぐに分かった。
「あ、はい……小川さん? ですよね? どうしたんですか?」
「小川さんも先週から来てないんですよ、ちょうど高山さんと一緒だから、あれ? って思ったんですけど……私の勘違いかな」
どうやら、私と彼を疑っていたらしい。名前を教えてもらった時に人違いだと言ったのに、信じてもらえていなかったのかと思うとがっかりだ。
でも、彼はどうしてジムに行かなくなったんだろう。
『近づかない方がいい』
記憶の中にいる彼は冷ややかな目で、突き放すような口調だった。
暗闇の向こうへと消えていく彼を見送りながら、もう会えないかもしれないと感じた。
あの時と同じ胸の痛みが蘇る。
彼は、私を避けているんだ。
「橙子、ゴメン」
顔を上げたら、沢村さんの向こうに桂一の姿。息を切らせて駆け寄る桂一を見た沢村さんは、慌てたように立ち上がった。