君の知らない空


「橙子さん、ありがとうございます。江藤さんにも話したんですが、社内では私には関わらないようにした方がいいと思います。もし何かあったら困るし……」

「私は平気だよ、オバチャンは怖いけど、関わらないようにって急によそよそしくする方が、余計に怪しまれるよ。今まで通り、私たちは普通にしていようよ」


私や江藤に対する気遣いが、逆に申し訳なく思う。一番大変なのは美香なのに。


「すみません、橙子さんや江藤さんには絶対に危険なことがないように、私も十分気をつけますから」


はっきりとした口調と真剣な目が、美香の強い意志を感じさせる。美香の言った『危険』という言葉など置き去りに、私も何か力になりたいと思わずにいられない。


「ありがとう。私に出来ることがあったら何でも言ってね、美香ちゃんのお父さんを探すのだって手伝うつもりだから」


「本当にありがとうございます。そういえば、この前会社迎えに来てくれてた人って、彼氏ですか?」

深々と頭を下げた後、美香が言った。

『迎えに来てくれてた人』とは、もちろん桂一のこと。桂一が兄の会社に勤めていることを、美香は知っているんだ。迎えに来てくれたところを見られているから……きっと疑っているのだろう。

桂一は仕事について、機密事項だと言っていた。もし仕事内容を私に話したと知ったら?

美香の兄を取り巻く厳つい人たちの雰囲気では、何かあってもおかしくない。

「違うよ、彼氏じゃないんだ。学生の頃のバイト先の友達、私が足を怪我したって言ったら送迎してくれるって言ってくれたんだ」

「そうだったんですか……すみません、彼氏だと思ってました」

慌てて全否定すると、美香は恥ずかしそうに笑って店内を見回した。




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