君の知らない空



小さな店内の5席のテーブル席には、私たちともう二組。どちらも女子の2人組で、笑い合う姿に怪しさなど全く縁がなさそうだ。


窓の外には小さな街灯。時折通り過ぎていく車のライトに照らし出されるのは、近所をウォーキングする主婦たちと家路を急ぐ自転車。


自転車を見たら、彼の姿が浮かんだ。赤い自転車を軽やかに漕ぐ風のような人。


彼は無事なんだろうか。


彼のことを、美香は知っているんだろうか。兄を狙って、父親と菅野が用意した刺客だという彼のことを。


尋ねたいけど尋ねることができず、私は唇を噛んだ。


「父が見つかったら、会社のことを話そうと思ってます。計画を中止してもらえるように。橙子さんや江藤さんたちに迷惑や危害がないように」


「ありがとう。お父さんが見つかるように、私にできることがあったら言ってね。協力するから」


彼を助けたい。
美香を助けたい。

彼が美香の兄を狙うことも、
美香の兄が彼を狙うこともやめさせたい。


いろんな思いが、頭の中に浮かんでる。暗闇の中に手を伸ばすように、私は自分にできることばかり考えていた。



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