君の知らない空
「それは、教えられない」
早口で答えて、周さんはくるりと背を向けた。彼は目を逸らしたまま、まるで他人事のようだ。
「どういうことですか? 誰なのか教えてくれてもいいでしょう、お礼ぐらい言いたいし……」
「知る必要ないし、礼も要らない。そうだ、家にも連絡しておいた。連絡無しに外泊するのは、さすがにまずいだろう」
「へ?」
私は間抜けな声を出して、固まってしまった。なのに、周さんは背中を向けたまま振り返りもしないし、隣の彼も微動だにしない。
周さんが?
私の家に電話したの?
誰が電話に出たの?
いやいや、
男性の声で家に電話してきたら、まずい以上に怪し過ぎるでしょう?
そんなの、
お母さんに、
誤解されちゃうじゃない。
「ちょっと……ちょっと待って。周さんが? え……っと……私の家に電話したの?」
「俺じゃない、もちろん亮でもないから安心しろ、誰とかいうことは気にするな、忘れろ」
小さな部屋の壁際にあるキッチンで、食器を洗う周さんの背中が私を突き放す。強い口調で私を納得させようとしているのだろうが、納得できるわけない。
腹立たしさが沸き上がる。なんだかバカバカしくて、我慢なんてする気にもなれなかった。
「ちょっと、何言ってるんですか? そこが一番大事なことでしょ? 私、誰の家に泊まったことになってんの? お母さんに聞かれたら、いったい何て答えたらいいのよ?」
気づいたら、すくっと立ち上がってた。
周さんの背中に向けて、一気にまくし立てる。
息を切らせる私を、周さんが見つめてる。とても冷ややかな目をして。